伊沢と女


伊沢は女と肩を組み、蒲団をかぶり、群集の流れに訣別した。
猛火の舞い狂う道に向かって一足歩きかけると、女は本能的に立ち止り群集の流れる方へひき戻されるようにフラフラとよろめいて行く。

「馬鹿!」

女の手を力一杯握ってひっぱり、道の上へよろめいて出る女の肩をだきすくめて、

「そっちへ行けば死ぬだけなのだ」

女の身体を自分の胸にだきしめて、ささやいた。

「死ぬ時は、こうして、二人一緒だよ。怖れるな。そして、俺から離れるな。火も爆弾も忘れて、俺の肩にすがりついてくるがいい。分かったね」

女はごくんと頷いた。